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定年釣り師と孫釣り師の夏
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早朝から、みんみんゼミが鳴いている。ようやく、暑い夏が戻ってきた。たまに三十度を越す真夏日になる日もあった。だけどアユ釣りは、かんばしくなく釣り人のぼやく声だけが聞こえてた。
孫たちが夏休みに入ったら、ぜひやらなければならないことがあった。去年、岩手県柴波町のロッド工房「カムパネラ」の宇田清さんと、「じじ孫会」なるものを結成した。大げさだが、何の事はない。祖父(じい)さんが孫らを連れて、野遊びを楽しもうということなのだ。日頃、川や海に出掛けて遊んでばかりいる祖父さんが家族の手前、せめてもの罪滅ぼしという意味合いもあった。
今年は、岩手県三陸町越喜来(さんりくちょうおきらい)の「遊・You亭夏虫(ゆう・ゆうていなつむし)」のコテージを借りた。大船渡市盛町の道の駅で、宇田さんらと落ち合い、まず向かったのは海だった。祖父さん二人、孫らは三人で五人の一行。この辺り名の知れた海水浴場は見当たらないが、越喜来湾に海水浴場があると地元の人が教えてくれた。探しながら海沿いの道を走ると、「越喜来浪板(なみいた)海水浴場」の立て看板が目に留まった。坂道を下ると、青い海原が広がる小さな漁港が現れ、数艘の漁船が岸壁に繋がれていた。
短い防波堤が海に空き出ていて、左側が港で右側は森を背にした海水浴場になっていた。狭い入江の海水浴場だが、白い砂浜にはゴミ一つ落ちてなく、海の水は透き通っていて驚くほどきれいだ。ちょっと沖には、横一列にブイを浮かべて、赤旗を揚げた小船に乗った船頭が一人見張り役をしている。ブイの向うは、遊泳禁止区域なのだ。
海水浴場には、売り場も食堂もなかった。海水浴の客はまばらで、なんとものどかな気分だ。こんな場所があったんだ。ここは、まさに贅沢な別天地だ。
孫たちは、泳いだり岩場でカニやヤドカリを捕ったりと大はしゃぎだ。時間を忘れて遊んでいたら、日暮れ近くになっていた。慌てて、山の中腹にある遊・You亭夏虫のコテージへ急いだ。林の中にあるコテージは、シックな立たずまいで室内には、風呂や台所まで備えていて、たっぷりとした広さがあった。夕食には三陸の海でとれた美味しい魚介類がどっさりと並べられていた。食事の後は、遊・You亭に隣接している「夏虫のお湯っこ」に浸り温泉気分を味わった。
次の日の朝早く、一行はコテージを出て越喜来崎浜(さきはま)の漁港から船に乗りこんだ。ライフジャケットを着こんだ。小学三年生、二年生に、幼稚園年長。孫らにとって、船釣りは初体験なのだ。船は崎浜の長栄丸。なじみの若き船頭は、木下広基さん。
船が波を蹴立てて進むと、孫らの歓声が上がった。しばらく進むと船は停まった。カキやホタテなどの養殖棚付近が、今日の釣り場だ。波はなく、海は穏やかだ。祖父さんらは、リールの扱い方や魚の引きはどうなのかなどを、孫らを前に教える。孫らは神妙な顔つきで聞いていた。
エサのイソメをハリにつけてやると、いよいよ釣り開始だ。孫たちは、うまくリールを動かし、オモリが海座へ着いた。そう、たやすく魚が釣れるものではない。と、思っていたらいきなり宇田さんの孫の竿先が、ガガン、ガガンと引きこまれた。それ上げろ。リールを巻けと、大騒ぎしながら指示していたら、手頃なカレイが上がってきた。なんということだ。と驚いていると、今度はこっちの孫の竿が、大きくしなった。さぁ、大変だ。リールを巻けと怒鳴ると孫は、顔を真っ赤にして必死にリールを巻きはじめる。手を貸したいが、ここは我慢だ。孫だけの力で釣らしてやりたい。
「じいちゃん。重い。助けて」孫が悲鳴を上げる。も少しだ頑張れと、祖父さんは居ても立っても居られない。
やっと魚影が、海面に見えてきた。でっかいカレイだ。タモですくいとった。
「やったぁー」と孫の勝利の雄叫び。なんと、それからぽつぽつとカレイやアイナメが釣れた。祖父さんは、エサをつけたり魚をすくったりと汗だくだ。
なんとも大人顔負けの、孫釣り師の誕生となった。それにしても、「じじ孫会」はひどく疲れるものだ。
(作家/村田 久)
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◇◆DATA◇◆
『遊・You亭夏虫』
住所:岩手県大船渡市三陸町越喜来
TEL : 0192−44−3711
『長栄丸』
TEL : 0192−44−2808
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