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【定年釣り師からの手紙】8月 祖父(じじ)と孫の夏休み


●定年釣り師・村田久氏の著書『定年釣り師 今日も明日もあさっても釣り日和』(小社刊/税込1470円)はこちら。釣りにまつわる珠玉のエッセイを集めた1冊です。
 学校が夏休みになると、孫を連れて一泊二日の旅が恒例になっていた。今年で四年目になる。毎年孫が楽しみにしてるので、約束を破るわけにはいかない。
 8月の初め、去年と同じく友人の宇田さんの孫らと一緒だった。宇田さんの孫は、小学四年生と小学一年生。小学三年生の僕の孫を入れて、祖父と孫の一行は総勢五人である。

 僕と宇田さんは釣り仲間なのだが、なぜか孫らも釣り好きで、海で釣りをしたい、というのが彼らの希望だった。
 そこで向かったのは海辺の町、岩手県大船渡市三陸町越喜来(おきらい)。こぢんまりとした静かな崎浜(さきはま)の漁港から、孫らは小さな船に乗り込んだ。波をけたてて走る船に、孫らの歓声が上がった。真っ青な空で、海は穏やかだった。小船が着いたのは、網で仕切られた湾内にある生簀(いけす)だった。孫らに網の中の魚を、掬い取る作業をやらせたい。どんな魚がこの海にいるのか、孫たちに体験学習をさせようという船頭さんの好意なのだ。

 網を巻き上げていくと、少しずつ魚が浮いて見えてきた。ばしゃ、ばしゃと水しぶきが上がる。すごい、すごいと叫びながら、孫らは必死になってタモ網で魚をすくい取っている。たちまち、ポリ容器は孫らがすくった魚でいっぱいになった
 タナゴ、イワシ、アジ、フグ、メバル、カレイ、ヒラメ、アイナメ、サバなど、船頭が一匹ずつ説明してくれる魚の名前に孫たちは目を輝かせている。クラゲやハリセンボンには、おそるおそる手を触れていた。

 小船から今度は、大きな釣り船に乗り換える。いよいよ釣り本番だ。孫らはますます元気で、船内をはしゃぎ回っている。世話係の祖父(じい)さま二人は、少々ばて気味だ。なにせ船から孫が落っこちはしないかと、目が離せないし、釣りの支度もしなくてはならない。
 ハリにエサをつけたりと、祖父は大忙しなのだ。釣りはじめて直ぐに、掛かったと宇田さんの孫が大声を上げた。竿先が大きく曲がり、ガン、ガンと揺れている。顔を真っ赤にしてリールを巻いている。釣り上げると、カレイと言ってにっこりした。もう、一丁前の釣り師だ。祖父ちゃん、祖父ちゃんという声に見ると、今度は僕の孫の竿がガクガクおじぎしている。重い、重いと弱音を吐く孫を、叱咤激励してなんとか一人でリールを巻かせる。釣れたのは、コチの仲間で二匹も掛っていた。あっちでアイナメ、こっちではカレイと大騒ぎになった。こっちは、魚をはずしたりエサをつけたりと汗だくだ。

 そのうちに、宇田さんの孫の竿が海底に根掛かりしたのか、引っ張ってもびくともしなくなった。宇田さんが代わってリールを巻くと、少しずつ上がってくる。宇田さんは、何かゴミでも引っ掛けたのだろうと言った。
 そのうちに海面に、何か赤っぽい物が浮いてきた。タコだ。船頭がタモ網を抱え走ってくると、上手にタコをすくい取った。船上に這いずり回る大タコを船頭が掴むと、その腕にタコはからみついた。孫らが悲鳴を上げた。

 そろそろ昼だ。船は次の釣り場へ移動する。その合い間に昼食を取り、一休みすることにした。孫たちは、一時もじっとしていない。パンのかけらを、海に放るとカモメが集まってきた。わいわい騒ぎながら、カモメと遊ぶのに夢中だ。祖父さま二人は、ぐったりしたまま声も出なかった。

(作家/村田 久)



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