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古布の命を生かしきる刺し子作家
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湘南の海を見下ろす山の上の家で、来る日も来る日も、針と糸を手に、古い布をチクチクと縫う若い女性がいます。絣や藍木綿の古裂を縫い合わせて一枚の大きな布にしたうえで全体に刺し子をして、洋服を仕立てる作家、小西美枝子さんです。
「刺し子」といえば、昔の火消しの半纏や剣道着といった無骨な作業着や運動着を思い出す方が多いでしょう。布を合わせてその上を細かく縫い目で覆うことで、布は元の何倍も丈夫になります。
靴下に当て布をしてチクチク縫う「ツギ当て」も、まあ同じ考え方ですよね。雑巾や布巾もそうやって縫うことで丈夫になるのですが、今はさっさとミシンでステッチをかけてしまいます。それでも手縫いの味というのは、捨てがたい魅力があって、刺し子の飾り縫いを施した布巾もあります。
で、小西さんは、その手仕事の刺し子を取り入れて、とてもおしゃれな服を作っています。
できあがった服は一作ごとにデザインも、布の表情もまったく違い、同じものはひとつもありません。手に入れた古布を前にして、イメージをふくらませ「売れるもの」より「自分が作りたい」ものをデザインするそうです。
小西さんは自分の店を持たず、HP上で作品を発表し、注文を受けてから、顧客とメールで打ち合わせを繰り返して作品を作り上げていきます。いわば1対1のオーダーメイド。
実は私も、そのサイトを通して、一枚の服を注文した客の一人です。できあがったジャケットがとっても気に入ったのと、HP上でのぞいた小西さんの暮らしぶりにあこがれて、どうしても会ってみたくなりました。
小西さんの家はもともと別荘地として開発された場所に建つ、自然に囲まれた素敵なところです。裏庭には小さな畑もあって(イノシシが出ます!)、ここに一匹の犬と、ノラから昇格した猫、そして会社員のご主人とお住まいです。
「築40年の古い家で、雨漏りがたいへんなのです。」ということですが、そこにご夫婦であちこち手を入れながら、美しく住みこなしていらっしゃいます。その様子には、なんだか小西さんの作る服と同じ味わいがあると思いました。
作品の素材となる古い布は、骨董市で仕入れてきます。藍木綿の野良着や書生絣の着物などは、昔はどこにでもあった日常着。いわば日本のジーンズみたいなものでした。でも着物を着る人が少なくなった今は、とても貴重なものとなって、価格も高騰しているそうです。
一口に「藍染」と言っても天然藍で染められたものは、新品だって微妙に色合いが違います。夜空のような、黒に近い深い藍色もあれば、光のあたり具合で焦げ茶に近い色に見える場合もあります。農作業で着古し、日に当たり、洗いを重ねた布は、色が落ちて薄いブルーになります。
もともとは労働着であったものが多いので、徹底的に着古し、擦り切れて生地が薄くなり、使えるところだけを切り取ると小さな端切れになってしまうようなものも多いのです。小西さんはそんな端切れの一枚一枚を捨てずに大切に保管しています。こんな小さな布端が小西さんの手にかかれば、世の中に二つとない斬新なデザインのテキスタイルとなってよみがえります。それはまさに小西マジック。
しかし、古い着物を解くのに半日、それを洗って乾かすのに1日。作業を始めるまでにまず2日はかかります。それから布の配置を考えながら、小さな布たちを縫い合わせ、一枚の布にしてから刺し子を始めます。
裏布を当てて全体に刺し子をしていきます。裏布を当てるのは、丈夫にするためでもありますが、同時に、組み合わせた布同士が浮き上がらないという効果があるそうです。その刺し子が完成するまで数週間。途中で手が痛くなり、何度も音をあげそうになるといいます。それからようやく、服作りの縫製が始まるのです。
小西さんの作る服の、もうひとつの魅力が天然木のボタン。会社員のご主人が趣味で作る手作りのボタンです。流木や、近所で採取した根曲がり竹など天然素材を材料にして作っています。これがまた小西さんの服によく似合っているのです。
小西さんはこれまで百数十着の服を縫ってきましたが、できたとたんに売れてしまうので手元には1着も残っていないそうです。「自分のためにひとつぐらい欲しいな」という小西さん。でもそれ以上に、作ったものを喜んで着てくれる人がいるのはうれしい、と。
「一番見てみたいのは、買ってくれた人が何年も着込んで、クタクタになってなじんだところ。多分、それが一番かっこいいと思う」そうです。
刺し子のジャケットで4万円前後から。布、仕立て方、デザインなどによって変わります。この労力、オリジナリティ、ていねいな仕事に対して、なんだか申し訳ないほど、と思いませんか? 新作はネットオークションに出品されることもあるので、ぜひ一度チェックしてみてください。
(ライター/小杉 たま 、 撮影/杉村 晴子)
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