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寒くて動けなかったコウモリが帰っていくまで
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「ねえ、コウモリ! マンションの駐車場にコウモリがいるの!」
昨年11月下旬のある日の朝、やや興奮気味の妻に起こされました。スコップを片手に駐車場に降りてみると消しゴムぐらいの、灰色のコウモリがうずくまっています。野生の動物が駐車場にいるということは既に死んでいるか、死期が迫っているはずです。どこかに埋めるつもりでスコップを持っていったものの、コウモリはまだかすかに動いています。このまま埋めるわけにもいかず、家に戻って持ってきたスーパーのトレーにコウモリを移すことにしました。
(余命いくばくかのはずのコウモリをどうしよう)。真っ先に思い浮かんだのは砂糖水を与えることでした。(カブトムシでもあるまいし)と思うものの、何を食べるのか、何を飲むのかもわかりません。トレーに砂糖水を含ませた脱脂綿を置き、その上にコウモリを寝かせ、防寒用にトレーをかぶせ、ベランダに置くことにしました。 時々見てみると、まだ心臓が動いています。夕方、寒くなってきたのでトレーを玄関に置くことにしました。死んだら明日の朝、どこかに埋めるつもりでした。
「お父さん、コウモリが飛んだ!」
小学校から帰ってきた娘が叫びました。もうすぐ死ぬはずだと思っていたコウモリが玄関を飛び立ち、洗面所のタオルにつかまっています。タオルに包むようにしてコウモリを捕獲しました。(さて、どうしたものか)。知人に借りたハムスター用のケージで飼うことにしました。タオルにつかまらせたまま、頭が下になるようにタオルを洗濯ばさみでケージの天井に固定しました。
翌朝、上野動物園に電話すると、
「コウモリは冬眠するんですよ。身体が冷えて巣に戻れなかったのかもしれませんねえ。身体を温めてあげてから、牛乳を飲ませたり、ミルワームという小鳥用のエサをあげてください」
と教えてもらいました。さっそくスポイトで牛乳を飲ませたら、ひし形の口で音を立てて飲んでくれます。ところが、半分に切ったミルワームはまったく受付けてくれません。それから日に2〜3度、コウモリに牛乳を飲ませる暮らしが1週間ほど続きました。
(天気がいい日に放してやろう)と考えていたある日の朝、ケージの中にコウモリがいません。ふたのすき間から逃げたようです。といってもケージを置いておいた仕事部屋のドアは一晩中閉まっていたので、絶対に部屋の中にいるはずです。とはいえ、何も飲まずにこの部屋で越冬することは不可能です。(仕事が一段落したら部屋を整理して、コウモリを探そう)と考えていました。
3日後の朝、カーテンを開けたところ、頭を下にして壁にぶら下がっていました。タオルで包むように捕獲したことはいうまでもありません。
まだ10時前でしたが、(今日、巣にもどしてあげよう)と決心しました。駐車場でタオルを広げると、元気よく飛び立ちました。駐車場の真上を大きく2周したあと、巣の場所を思い出したのか、ゆっくりと飛んでいきます。
逃げ出した前日、マンションの子供たちにコウモリを見せてあげました。コウモリは怖い動物だと誰もが思っていたようです。ところが、シャープペンの芯ほどの大きさしかないコウモリの指を見て、「可愛いね!」と言ってくれたことがとても印象的でした。正直言って、自分自身も(コウモリなんて気持ちが悪い)と思っていました。しかし、音を立てて牛乳を飲む姿はとても愛おしかったし、貴重な体験をさせてもらいました。(春先、元気な姿を見せてくれたらいいなあ)と願っています。
(ライター/中島 茂信)
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