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キタキツネが暮す場所で。その2『キタキツネ慕情』


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 阿寒湖畔撮影の帰途一匹のキタキツネに出会った。最初はこちらも警戒して車の中から撮っていたが、随分人慣れしていて車から降りても逃げる様子もなく、餌をねだるでもなく湖畔の方へ導くかのように森の中へ入っていったので、カメラを一台だけ持ってゆっくりと後を追った。
 ブッシュの中をやっとくぐり抜けて湖畔へ出てみるとそこはかなり長い砂浜になっていて、阿寒湖が眼前に大きく広がり左手に雄阿寒岳(海抜1371m)がどっしりと座っていた。

 さて、「おキツネ様」はどこかな、と見るとなんと目の前に夕景の空をバックにちょこなんと座っているではないか。まるで「こっちだよ」と声をかけているみたいな様子だ。私もそこへ座り込んで「お前さん人に飼われたことがあるね」と語りかけた。返事をするわけはなく、つと立ち上がると砂浜をあっちへ行ったりこっちへいったり、次第に明るさを失ってゆく空の下で、まるで今日の日を惜しんでいるかのように人間くさい仕草をするのである。

 キツネって湖に入ったりするのだろうか、などと思っていたらなんと水際に寄って首を伸ばし水をピチャピチヤ飲み始めた。飲み終わるとチョコチョコと寄ってきたナと思っていたらなんと湖の中に入って遊び始めたではないか。以心伝心か、などと感心していたら突然空を見上げ「ぎゃっ!」と一声鳴いた。キツネの鳴き声は知っていたが、目の前で鳴かれると迫力があり仰天した。更に2度3度鳴き続けたと思ったら藪の中にすっと姿を消し、どう探しても見つからなかった。

 導かれるように遊んだ30分ばかりの時間はなんだったのか、阿寒の森の中に消えていった悲しそうな鳴き声は別離の挨拶だったのか。私はどうも阿寒の奥深い森の中で、一匹のキタキツネと戯れていただけだったような気がしてならない。帰りの車の中で思わず眉に唾をつけたのである。

(北海道在住/藤 泰人)



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