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愛犬家のマナー向上が招く(?)希少な虫の絶滅


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 暮れから犬糞を野ネズミの巣穴に仕掛けて巣穴に住む昆虫を狙って採集をしているのですが、今まで「洞穴性」と思われていた種が「実は身近なモグラ穴などにむしろ多い」ことがわかってきました。ウエノマルマグソコガネ(体長3mm前後)という糞虫は1984年に四国の洞窟で1頭だけ発見・記載され、図鑑には「洞穴に住み、複眼が退化……」と記されています。しかし、上から見ると複眼が無いように見えますが裏から見ると実は小さな複眼があるのです。図鑑を書いた執筆者の手元に「標本が無かったのでは……」と私は推察します。

 そのウエノ……がネズミの坑道に犬糞を仕掛けることで採集できることがわかり、今では四国の低地から標高1000mの高山帯まで生息していることが確認されています。大分県や福岡県で採れるものは九州亜種として取り扱われていますが、研究者が増えればさらに広く分布が確認されると考えています。先日、同様のトラップで採れたホソガタチビシデムシも洞穴性と思われていた種でした。

 このように生態が判明すれば数多くの生息が確認され、絶滅の恐れも軽減するのですが、逆に生態が分かっているから「絶滅の危機」に瀕していることが如実な種群もあります。オープンランド(「広く開けた場所」つまり牧場とか野原など)の糞に来る糞虫の仲間、言い換えれば、野外に放置された動物の糞に産卵し増殖するコガネムシの仲間たちです。この仲間は夏季にも出現しますが、冬季に増殖する種もいるという変わった生態を持っています。動物の生態を調べている研究者に聞くと「特異な生態を見せる多くの種は、その種の存続に適したさまざまな生活史を持っている」と言いますから、彼らにとっては夏季より冬季の方が都合の良い何かがあるのでしょう。

 そんな訳でこの冬、犬糞を探して公園や河川敷を歩いてみますが最近では滅多に糞が落ちていません。犬の散歩をしている人は必ずと言っていいほど、片手にスコップとビニール袋を持っています。糞探しをしている当方にとっては「マナーも大切ですが……」と嘆き節の出る瞬間でもあります。それだけ貴重な犬糞ですから、マナー違反者の犬糞には必ずといっていいほどマグソコガネの仲間が来ています。先日、近くの河川敷で見つけた犬糞にはセマダラマグソコガネが10数頭も群がっていました。数十年前まで普通に見られていたクロモンマグソコガネなどは今や福岡県の一部地域と大分市内の河川敷にわずかだけ生きながらえている状況なのです。
    
 このように、近代化につれて従来里山に生息していた糞虫が激減しているのは牛馬の糞が道端から消えたことと、唯一の糧であったペット犬や野犬の糞までがマナーの向上によって姿を消してしまったことなのです。犬糞の垂れ流しは決して好ましい状況ではないことは理解できます。しかし、自然界の生態系を考えた時、果たして、現在の人社会の倫理が生物の多様性に寄与しているとは言いがたい現実もあるのです。この問題、皆様はどう判断しますでしょうか?

(大分県日田市在住・昆虫ライター/佐々木 茂美)



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