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牛耕も復活! 豊作祈願の「たかしま生きもの田んぼ」
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「シィツ! シィッ!(進め!)・・・オッ、オッ(止まれ)」
合図の言葉に反応し、但馬牛の「はるえちゃん」が戦前に製作された木製の鋤(すき)を力強くひっぱる。5月の連休明け、滋賀県北西部の高島市の山中にある椋川集落で今年も牛耕による田起こしが始まった。一昨年から滋賀県立大と農家との協働で行われている「牛耕の復活」は、里山と田んぼと人とが一体となった循環型社会を再考するために行われている。
椋川をはじめとする高島市の山村では、かつて里山の雑木林に計画的に火を入れ、焼け跡から萌芽した木々の若枝を農耕用の牛の餌や敷き草代わりに利用していた。その牛の糞と、敷き草として牛舎で利用済みの枝を混ぜ合わせて堆肥にし、田畑の肥料として活用していたのだ。
「里山と田畑と人とが一体となっていた当時の循環型社会には、たくさんの知恵が込められていたと思うんです、それを、お年寄りから聞き書きで記録するだけではなく、実践しながら現場で色々と教えてもらおうというわけです」
椋川集落で農業を営む是永宙(これなが ひろし)さんは、Iターンで椋川に就農する若者たちのリーダー的な存在だ。同時に、高島市で展開されている生物多様性保全型の米づくりプロジェクト「たかしま生きもの田んぼ」のメンバーでもある。
これまでにも紹介してきた通り、「たかしま生きもの田んぼ」では無農薬・無化学肥料の田んぼを中心に、魚道の設置やビオトープの造成、冬期湛水水田など、様々な生物多様性の保全策が展開されている。この牛耕と山焼きの復活を目指した取り組みも、里山の生物多様性を保全していく上で重要な意味をもっているのだ。
かつて薪や炭などを産出していた里山の森に手が入らなくなり、藪地化した森の中ではカタクリやリンドウのような山野草や、貧栄養土壌を好むシメジのような有用キノコが生えにくくなっている。また、森の中で獲物を捕らえる猛禽類にとっても藪や枝木が邪魔になって狩場を失わせてきた。里山と田んぼと人の暮らしの好循環を再考するうえで、牛耕の復活は多くのことを学ばせてくれることだろう。
「今日は珍しいものを発見しましたよ。モリアオガエルが田んぼの畦で産卵していたんです」
と是永さん。畦に産卵するのはシュレーゲルアオガエルで、モリアオガエルは水辺の樹上に産卵するというのが定説だ。現場を案内してもらうと、なるほど確かにモリアオガエルが畦脇の田んぼで産卵していた。
自然と生きものは毎日のように新しいことを教えてくれる。こうした発見を見いだす視点が「たかしま生きもの田んぼ」の農家の間に着実に広がっているのは嬉しいことだ。
いっぽうその頃、琵琶湖の湖岸に近い平野部の農家は、チュウシャクシギなどの渡り鳥が田んぼに来る中、トラクターでの代掻き作業で忙しい日々を送っていた。除草剤を使わない米づくりのため、田植えよりも一ヶ月以上も前から田んぼに水を張り、コナギなどの有害雑草を先に発芽させておくのだ。田植え前に発芽した雑草の芽株を代掻き作業で泥に練りこんで退治する、ということを繰り返し、ようやく田植えをすることができる。
今年から跡継ぎ農家として本格的に就農した石津大輔さんが、自ら耕作する中で一番大きな田んぼを前に心配そうに語った。
「ここの田んぼ、冬からずっと水を張っていたんですが、コナギが思ったように生えてこないんですよ。場所によってはすごく密集して生えているので、種子は間違いなくあるんですけど」
通常、除草剤を使わない無農薬栽培の場合は3反(30アール)程度までの面積の田んぼが適しているとされる。雑草を抑制するために必要な水位の調整管理などで「小回りが利く」ことが有利だからだ。しかし、懸案の田んぼは1枚で1.5ヘクタールという巨大水田。本来は大型農耕機と除草剤を用いるのが大前提の、合理化栽培を目的に近代整備された田んぼだ。これを農薬という「護衛」なしで栽培するのは、「巨大戦艦の単独突撃」にも等しい無茶な作戦と思われた。
去年は田植えをした後からコナギが大発生し、収穫が目標の半分にも届かないという悲劇を味わった石津さん一家。今年は栽培技術を確立するため、無農薬の田んぼの栽培規模を縮小するはずだった。ところが「たかしま生きもの田んぼ米」のコンセプトや美味しさが次第に評判となり、今年の正月明けにはほとんどすべての参加農家から無農薬米の在庫がなくなってしまうという事態になったのだ。
それでもなお、「美味しくて安心な、たかしま生きもの田んぼ米を食べたい」「ご飯のときに、田んぼの風景や生きものたちの息吹が感じられます」という声が、京阪神はおろか関東の消費者からも寄せられてくる。首都圏のこだわり米穀店の経営者たちも現地視察に訪れるようになった。そうした人々の想いに応えるべく、複数の農家が無農薬の田んぼの作付面積を昨年の数倍の規模に拡大した。去年は合計8ヘクタールと最大規模で無農薬米を栽培していた石津さんも、背水の陣の覚悟で9ヘクタールにまで拡大したのだった。
こうなると農作業は戦争状態である。通常は1回の代掻きですむ田んぼを、無農薬栽培では2回、3回と行わなくてはならない。それを広大な面積で繰り返すのだ。まさに寝る暇もないような過酷さの中で、来る日も来る日も代掻きが続いた。さらに田植えの後も、発芽したコナギを除草機で取り除き続けるという毎日だった。
「海みたいに広い田んぼの水面を見つめながら除草機に乗り続けていると、船酔い状態になるんですよ」
と石津さん。その苦労が実り、7月には見事な青葉が波打つ田んぼの姿となった。雑草の発生の危機はほぼ去り、順調に行けば秋には去年の倍近い収穫が見込めそうだ。今年から新たに参加した6軒の農家も無農薬栽培に挑戦し、そのすべての田んぼで順調に稲が育っている。
生きものたちの共生策も順調に展開されている。休耕田に造成された複数のビオトープでは、絶滅危惧種のナゴヤダルマガエルやカスミサンショウウオ、そしてメダカが安定的に繁殖できる環境が生まれている。今年の春に初めて魚道を設置した農家の田んぼでは、琵琶湖からニゴロブナが産卵のために遡上し、同時に去年までは姿が確認できなかったナゴヤダルマガエルが今年になって大発生するという予想外の展開も見せている。
「お米」だけではなく、「生きもの」だけでもなく、地域や食卓で関わる人々の「心のつながり」をも育んでいこう、というコンセプトで始まった「たかしま生きもの田んぼ」プロジェクト。発足して3年が経過した今、多くの人々の笑顔や共感に支えられながら育んでいるものは、持続可能な新しい「時代」、なのかもしれません。
(ライター&雑魚党政釣会長/多田実)
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<お問い合わせ>
高島市 産業循環政策部 農業振興課(直通) TEL/0740-25-8511
アミタ持続可能経済研究所 TEL/075-255-4526
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