 |
 |
“スキーで歩いて南極点へ”ツアー顛末記6
南極大陸に雪が降る
|
カナダ人のチームメイト、ピーター・ブレイキー(70)が疲労のため遠征を断念したのが12/8の早朝。4人から3人に減ったのですが、私たちはすっかり寂しくなっていました。
そんなところに雪が降り始めました。
12/9の朝は曇天で、ただのホワイトアウト、つまり見通しのきかない霧の中のような感じでしたが、昼ころから強い東風に乗った雪が吹き付けるようになりました。視界はほとんどなく、左右上下ぜんぶ一緒。ただ気温はそれほど下がらず、-10℃前後と晴天より暖かい。それまでほぼ毎日好天が続いていたので私は、「いくら夏の南極は安定しているといっても、たまには雪だって降るだろう」くらいにしか考えませんでした。
南にある極点を目指している私たちの左側、つまり東から吹き付ける風と雪は新鮮にすら思えました。出発以来ずーっと真正面から風が吹いてうんざりしていたのです。
とんでもないことでした。翌日、ALEとの夕方の定時電話交信で、パトリオットヒルズ付近、つまり南極大陸のほぼ端の南緯80度から、なんと南緯85度あたりまでを覆う巨大な雲があると知らされたのです。そしてこの状態は少なくとも数日は続くだろうと。そんな広大な地域を覆い尽くす雲があるなんて……。そして安定しているといわれるだけに、逆に悪天候がこの大陸に棲み付いてしまったら……。不安と緊張感があっという間に気持ちを覆い尽くしました。
けれどこの不安を言葉にするわけにはいかない。私たちには目的があるのだから。今は爪の垢ほどの心配すら受け入れるわけにはいかない。私の心は強く主張していました。
毎日毎日、ぼんやりした真っ白の世界。完璧なホワイトアウト。日ごとに雪は深くなっていきます。一時も止むことなく、私たちの行く手をさえぎるように東から真横に飛び続ける雪。完璧なまでに横一文字を描き続ける雪。その中を私たちは毎日歩くしかない。
ナビゲーションは大変でした。
たとえ見通しが利いていても地平線まで見渡す限り360度何一つ目標物のない大陸。目標を定めてまっすぐ歩くことは慣れるまでなかなか難しいものでした。それが、自分の目の前はただ何もない白。想像できるでしょうか……。方向の定めようがなく、歩き始めるとすぐにだんだん右や左へとずれていきます。二番目や三番目に歩く者にはそれがはっきりわかるのですが、トップはまっすぐ歩いているつもり。後ろが注意しなくても、しばらくして振り返ると軌跡が大きく弧を描いていることに気づく。また方向を定め直し、白に向かって歩く。効率よくまっすぐ進みたいのですが、その難しさはみんな分かっていて、もう何も言わない。私たちの歩いた跡は、ヘビのようにうねうねと蛇行していたでしょう。
一日目に軽々走っていたそりは二日目にはサスツルギに引っ掛かるようになり、三日目には深い雪に阻まれるようになりました。それでもみんな毎朝黙って荷物をまとめ、雪に埋もれたテントとスキーと橇を掘り起こして荷づくりをし、一日歩き続け、テントを張って食事をする。毎日の日課をこなすことに集中しました。
出発して二週間ほど、私たちはいったいどうなってしまうのか、不安いっぱい。しかしそれを口にすることもできず、とにかく毎日歩くこと、無白に向かって行進を続ける以外できることはないのでした。
南極点までまだおよそ1000km、こんな状況下では不可能とも思える数字で、私たちの前にホワイトアウトのように立ちはだかっていたのです。
(登山家・ライター/續 素美代)
|
|