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“スキーで歩いて南極点へ”ツアー顛末記10
飢えの苦しみ、そして解放
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雪は降り止んだものの、地上に積もった大量の雪。予定よりはるかに遅れ、予備の食料までもが底をつき始めました。食糧危機の大ピンチです。
いうまでもなく食事は最も重要な要素。出発前、1日の摂取エネルギーを8000kcalで計画しました。成人男性の食事目安は2600kcal/日。私は一応女ですが超のつく大メシ喰らいで、何もしていない東京生活でも1日3000kcalくらいは平気で食べます。しかし8000kcal!!! どうしたらこんなに食べられるのかというくらい。しかも普段は欠かせない新鮮な野菜や果物なしの、完全保存食系ではすぐに飽き飽きして、うんざりして、嫌になって、etc. etc.
けれど遠征では食べ物に文句を言い始めるとそれこそ限がありません。大切なのはどんなものでも感謝とともにおいしく食べられる体質と、不平不満を言わないこと。この能力が高いほど成功率も上がるような気がします。
それにしても8000kcal。さすがに最初は計画通りには食べられませんでした。ただこの頃にはすでに胃も大きくなり、何より運動量がはるかに増えて、身体の要求を満たすために3人ともすさまじい大食漢へとバージョンアップしていました。
83度の補給直前の3日間は厳しい食事制限がかかり、1日4000kcal程度でした。まさに空腹地獄……。おなかがすいてたまらないのです。そりを引いて歩く1日中、食べ物のことを考え続けました。食べるものがないのは明明白白。それでもあきらめはつかず、何かないかと橇の中の物資を一つ一つ思い浮かべます。カメラはさすがに無理か……、固過ぎて歯が折れちゃうよね。ソーラーパネルをちょっと齧ってみようかなぁ……、でもおなか壊すかな。あーあ、ダメだ……。この繰り返し。
挙句の果てに見たのは、日本の高級食料品店で買い物をする夢でした。焼きたてのフランスパンに、生ハムとチーズ、新鮮な野菜を買い物かごに入れ、おいしい赤ワインをじっくり選びます。親切な店員さんにショウケースに並んだ高級キャビアとからすみとなぜか枝つきのレーズンの説明を受けた後、デザートはアレクサンドリアに決定。せっかく会計済ませたのに、ブツはもらえず、入り口わきのトイレに行こうとして目が覚めた時は、切なかったねぇ……。グーーーッとおなかが鳴って、トイレに出る気力もうせるほどのハラヘリ状態。
しかし必ず努力は報われるのです。12月21日午前10時半過ぎ、私がトップで歩いていた時、ついに南緯83度の補給が見えました。みんなまっしぐらです。残っていた夕食は昨晩で食べ尽くし、橇は軽く、おなかもすっからかん。
13:30補給到着。大感激でした。早速荷物を掘り出しながら、テントを張り、ストーブに火を入れてご飯を作る傍ら、食糧の確認。この補給はピーターが離脱する前にすでにデポされていた、つまり4人分の朝食と夕食が12日分あったのです。全員がこんなに幸せな気分になれるなんて、食べ物の威力はすごいですねぇ。
遅れを取り戻すためにここで休養日は取れないけれど、午後だけ半休。キャメロンはうれしそうに鍋いっぱいの中華風甘辛ご飯を作り、ジョンが忍ばせていたスコッチウィスキーでよっぱらいました。
つかの間の休養、幸せな午後。
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やっと着いた! デポだ!!! (略) うれしいなぁ。気を抜いてはいけないと思っていたけれど、現実はすっかり気が抜けるほどの安心感と、本当にここから世界が変わるのではないかという感覚。(日記より)
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食糧危機は予想以上に精神的な切迫だったのでしょう。解放感にひたります、しかし南極点までまだまだ遠く、800kmほどあるのでした。
(登山家・ライター/續 素美代)
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