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“スキーで歩いて南極点へ”ツアー顛末記19
最後の補給を拾う、ファイナルストレッチへ
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雪に膝をついて、絶望感いっぱい。「もうダメかもしれない」、坂を転げ落ちるように奈落の底へと急降下する気分です。どんな励ましの言葉ももう効果はない。しかし逃げられない現実に引き戻したのは、寒さと風でした。「このまま座りこんでいても何も起きない」。やめるにしろ、進むにしろ、とにかくキャンプまで2人の後を追っていくほかない。誰も迎えに来ないし、止まっている時間が一秒でも長ければ体は冷えて無駄にエネルギーを消費し、次の行動でパフォーマンスは上がらないのです。
のろのろと立ち上がり、よろよろ歩き始めました。こんなに疲れて弱り切ってしまうのは初めてです。私が過去にやってきたことは、まだまだ余裕のある範囲内であったからか、絶対に大丈夫という希望があったからか。涙は流れ続けています。寒さはつらく、もう歩きたくない。それでも前に進まなくてはならない。「前」に。ふと以前、計画が行き詰まった時にもらった友人のメールを思い出しました。
「前だけ向いていきましょう」
行きましょう、は、行ってください、ではない。一緒に、という思いが、気持ちが込められているのを深く感じて、携帯を握りしめて泣いたものでした。いつでも、いつまでも応援しているよ。そう、みんなが応援してくれている。
出かける前、忙しいのに宴会やってくれて、お餞別を集めてくれた飲み友達。忘年会をねらって衛星携帯電話で電話をかけたら、「生きて帰ってきたらボクの家をあげるよ〜」と酔っ払って怒鳴っていた知人。初めて髪を切りに行った店で南極行きの話をしたら「僕も応援します!」と千円募金運動の一番乗りをして、千円出してくれた若くてかっこいい理容師のおにいちゃん。
みんなの笑顔が浮かんでは入れ替わり、私を前へと導いてくれるようでした。今、一人でつらい思いをしているけれど、彼らが応援してくれたからこそ、夢の実現に向かって歩いて来られたはずだ。私の自分勝手な夢を信じてくれて、それに賭けて、お金を出し、気持を乗せて支援した人は、きっと私がどれほどの苦しみに直面し、どれだけの痛みを乗り越えようとしているか分かってくれているはず。そしてその先にある成功と幸せをきっと私以上の喜びをもって迎えてくれるはず。絶対にここで負けるわけには、いかない。
みんなに応援してもらって始まった努力、なんとしてでも実現させたい。この手で成功を勝ち取らなくては。みんなの笑顔にまた会うためにも。
88度の補給は今まで経験したことのない寒さと嵐の中にありました。食糧と簡単な装備、燃料で再び30kg近くの物資。そりはここでまた重くなります。ひどい風でテントが揺さぶられる中、食糧の点検をし、夕食を済ませ明日の水の準備をした頃、私は2人に話をしました。
最後のセッションでかなり遅れ、心配させてしまったのは申し訳なく思う。最大の努力をしているけれども、これが私の限界なのかもしれない。
けれども、ここであきらめて帰る気にはどうしてもなれない。たった一日の、たった数分のつらさから逃れるために安易な決断をするには、あまりにも長い時間をかけて夢見て努力し、また多くの人に応援してもらっているから。今日一日の苦しみだけを考えて結論を出すには、昨日までの45日間、乗り越えてきた距離、別れ、苦労、大雪、飢餓は、長く、厳しく、大きすぎる。大切な努力を水の泡にしてしまうわけにはいかない。
たとえ自分勝手と思われても、私はここであきらめるわけにはいかない。
静かでした。優しく穏やかな沈黙でした。やがてだれからともなく寝る支度を始め、寝袋に入って横になろうとしたとき、キャメロンが、「あと8日間だヨ」と優しく言いました。外は変わらず強い風が吹き続けています。
横になった時、これは闘いだ、と感じました。何との、どんな、闘いなのか、わかりません。けれど命を賭けた闘い。
眠りは相変わらず浅く、8時間の睡眠時間が終わるとまた1日が始まります。緯度にしてあと2度と24分、300km弱。第4コーナーにさしかかり、最後の直線を残すのみという感じかな。
しかし、まだまだ長い道のりと厳しい自然が待ち構えているのでした。
(登山家・ライター/續 素美代)
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