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「中古民家主義」への誘い
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「そういえば人の家の中って、知らないもんだな……」。
よそのお宅におじゃまするたびに、つくづく思う。
私と写真家の夫は、ずっと辺境の地を歩いていた。そこで暮らす人々の生活を記録して歩くためだ。ベトナムの農村や少数民族地帯、タイの庶民、アフガニスタンの戦火の傍らの日常、カナダの新移民、日本の超過疎村に離島に漁村、それから東京の下町や東京湾の漁師町……。いつでも我が家とはまるで違う家屋の仕組みや、そこでの生活の知恵には驚かされることばかりだった。
でも、その視点をふとその辺に向けたとき、案外行きつけの商店や銭湯の裏側が未知なる世界であることに気付いた。そう、毎日暮らすありふれた町の風景に埋没した普通の家々こそが、実は秘境だったのだ。
そこで私たちは、東京やその周辺にある「普通の家」を巡り始めた。荒川区の木造の町工場は作業をしやすいように自分たちで見事に改造し尽くされており、柔道場兼整骨院の畳の下には秘密があったし、根津に建つ昭和初期の長屋には驚きの床下があり、根岸の料亭の職人の技に目を見張り、早稲田の下宿館は人情厚く、団地の居心地の良さに感嘆し、和洋折衷の邸宅に憧れ、山谷のドヤに人生を振り返り、漁師町の自家製水上建築の基礎部分に唖然とする……。
こうして何十軒もの家々を訪ねては、室内や外観などをくまなく撮影させていただき、イラストレーターのアーサさんに間取り図を起こしてもらった。
中でも私が興味を抱いたのは、「彼らはなぜこの家をここに建てて、そこでどのように暮らしているのか」という点だ。古い家をそのまま維持することは、相当な意思の力が必要だ。それを守り続ける主たちにお話を伺うと、どんなにか彼らがその建物を慈しんでいるかがわかる。そしてそれを見守ってくれる大工さんの存在も欠かせない。そんな人間模様が、私にはたまらないのだ。
東京は高度成長期にはじまり、バブル期、そして現在も破壊の連続だ。いやむしろ、江戸の昔は大火に焼き尽くされ、関東大震災や戦火と、街は何度も変貌を繰り返してきたせいか、東京の人は古い建物に思い入れを託すことを、はなから諦めているのかもしれない。中古民家も気を許していると、あっという間に消失し、そこに何があったのかすら思い出すことができない。
急がねば。秘境はいつもそっと消えてゆくのだから。
(生活を覗く文筆家/眞鍋 じゅんこ、写真/鴇田 康則)
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◇◆参考◇◆
「中古民家主義」[交通新聞社刊、1890円(税込)]
◇◆お知らせ◇◆
本で収めきれなかった物件やあれこれをご紹介するスライドトーク「中古民家主義への誘い」も催します。3月15日(土)は文京区本郷界隈の中古民家をちょっとだけ巡るオプショナルツアー付き。
HP:http://www.csij.org/03/shiminkouza.html#25
☆また5月10日(土)には神保町の三省堂書店で、第2回目のスライドトークを予定しています。
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