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日本のど真ん中で中古民家を発見する


●イベントの情報はこちらのブログ「眞鍋じゅんこのまっすぐには歩けない」でも詳しく紹介されています。東京や日本中を常々ぶらぶらしている筆者とカメラマンの夫が集めた情報や写真を、毎日更新しています。
 ふらっとさ迷い込んだ背高ビルが建ち並ぶオフィス街の裏手には、何と長屋やツタの絡まる蔵や町工場が並ぶ「普通の町」が広がっていた。その真ん中に立って見上げると、空はポッカリ大きい。千代田区神田淡路町。東京の、いや日本のど真ん中で、こんな風景に出会うとは驚いた。

 BE-PALを発行する小学館の所在地千代田区に人口はただいま約4万4千人。ビルばかりが建ち並ぶこの地の、一体どこに4万人も収まる住居があるのだろうと、町を歩いてみた。
 念のため区役所で「用途地域の指定状況」という地図を調べてみると、この区にもオフィス街や商業地域ばかりではなくて、ちゃんと第一種・第二種住居地域があることがわかった。

 この区は皇居を中心にして五角形に近い形だが、住居地域は西北地区に集中し、あとは商業地域に指定されている。これを江戸時代の地図と見比べると、面白いことがみてとれる。この西北部とはいわゆる「番町」と呼ばれる地域や九段界隈の富士見地域だが、大名屋敷や武家屋敷のあった往年の武家地でもあるのだ。
 ちなみに千代田区の中心にあって、区の面積の1割強を占める皇居もれっきとした「第一種住居地域」であり、容積率300%、建ぺい率60%と、区内随一の厳しい規準に指定されている。もっともこの「住居」は、敷地面積が途方もなく広いのだから、何も高い建物を建てる必要はないんだろうけど。

 そもそも江戸の町は、その約7割が武家地で約1.5割が寺社地など。残る約1.5割の土地に人口の半分を占める町民約50万人が、ひしめき合って暮らしていたといわれている。先に見た現代の用途地域は、みごとにその時代の名残を留めているように見える。四谷や市ヶ谷あたりの元武家地を歩くと、今なお広い敷地に豪邸や造りのよさそうな高級マンションが建つ風景を目にするが、町人地であった神田界隈は、びっしりとビルや商店が建ち並ぶ商業地として進化を遂げている。

 そんな中、冒頭に述べた神田淡路町や須田町あたりには、ビルの狭間に今だ木造の町家が点在していたりする。調べてみれば、江戸時代には武家地であったものの、東側の町人地と接していたことと、この付近に現在の中央線にあたる鉄道の万世橋駅があったことから、明治以降は商店や職人の町として賑わったそうで、当時の面影を留める建物が残っているのだ。
 もっともこういう物件は、行政が考える都市計画という観点からすれば、「低未利用」の土地と解釈される。この地価のすこぶる高い地域において、1〜3階の建物ではあまり効率の良い土地利用がされていないという意味なのだとか。
 しかしこれらの物件こそが我らが愛すべき「中古民家」の証なのである。

 「中古民家」とは私たちが勝手に名付けた呼び名だ。  巷ではいわゆる「古民家」がここ数年来もてはやされており、写真と文筆が生業の私たち夫婦も、数年来日本のあっちこっちの古民家を巡り歩いた。しかしそれらは「豪商」であったり「豪農」であったり、はたまた「武家屋敷」であったりと、残されるべくして残された豪邸であることが多かった。その一方で、普通の町の風景の中にある普通の家々は、誰に惜しまれることもなく、ある日取り壊されてしまいがちだ。
 これを何とか記録に残そうと、私と夫は「中古民家」と名付けて東京中を巡り歩いているのだった。
 銭湯に長屋、奥行きのやたらと長い商家、昭和初期の和洋折衷住宅から団地に山谷のドヤまで、「東京とその周辺部の人は、どんな家でどんな暮らしをしているのか」を見せていただくのだ。

 話を千代田区に戻そう。
この淡路町や須田町のある万世橋地区に、何故古い建物が残っているのかといえば、お茶の水の高台上にロシア正教会のニコライ堂があったため、第二次世界大戦中にも爆弾が落ちなかったからだといわれている。私たちがおじゃましたお宅も昭和初期に建てられた染め物屋さんであり、その作業場には職人ならではの工夫が各所に散りばめられていた。

 そこから少し東に歩くと、こんなところにまだあるか! と更に驚く甘味処の竹むらやあんこう料理のいせ源本館など、立派な木造3階建てや数寄屋造りの日本家屋といった老舗の数々が並ぶ地がある。こっちは「東京都選定歴史的建造物」に指定され、現代でも凛として営業を続けているからすごい。
 そのくせ、一歩大通りに出れば、車は激しく往来し、両脇にオフィスビルが壁面のようにそそり立っている。そんな日本のど真ん中千代田区に、こんな昔風情の景色が存在すること自体、何だか奇跡のように思えてくる。
 中古民家はさまざまな歴史の偶然と、建物を愛しむ人々の思いに守られて、今もどこかでひっそりと息づき、生活が営まれていているのだ。

(生活を覗く文筆家/眞鍋 じゅんこ、写真/鴇田 康則)


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◇◆イベント情報◇◆
<中古民家見学ツアー&中古民家主義スライドトーク>
開催日:5月10日(土)
中古民家見学ツアー:千代田区神田淡路町近辺
トークショー会場:三省堂神保町本店
HP:http://www.books-sanseido.co.jp/blog/jinbocho/2008/04/post-54.html

*著書「中古民家主義」(交通新聞社刊) で収めきれなかった物件や写真もご紹介しつつ、明治・大正・昭和の普通の人々が暮らした「普通の家の中身」を、そっとご案内いたします。
書籍HP:http://item.excite.co.jp/detail/ASIN_4330987082

[お問い合わせ]
三省堂書店神保町本店

<「中古民家主義への誘い(いざない)」小写真展>
開催日:4月24日〜5月6日
HP:http://www.yanesen.net/horo/info/1656/

<中古民家見学ツアー谷中根津千駄木編&スライドトーク>
開催日:6月25日

☆ちなみに小写真展開催の連休中、古書ほうろう周辺は「不忍ブックストリート」や、根津神社の文京つつじまつりなど、お楽しみもたっぷりのお散歩日和です。初夏の中古民家めぐりとスライドトークと写真展、どうぞお気軽にご参加下さい。懐かしさいっぱい、でもまさに現代そのものです。



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