
第1話
ピンクのサンゴ
文 /こばやしまさこ
写真/小林安雅
写真/小林安雅
一枚の写真があります。
写っているのは、エダサンゴのなかま。
海の生き物で「なかま」という名がつくのは、まだちゃんとした名前がついていないという意味です。このエダサンゴは見たこともない、ピンク色をしていました。今でも正式な名称がわかりません。赤道間近のほとんど人が入ったことのない環礁の内側。水深がひざ丈ほどの場所で、ひっそりと息づいていました。
このピンクのサンゴが、私がスキューバダイバーの目で、最後に見た海の生き物になりました。また、オットと私の、人生の象徴になるなんて予想もしませんでしたよ。
ミクロネシア連邦・ポンペイに、ダイビング雑誌の取材で訪れていた。
抜群の透明度のポンペイの海中を、オットと私は精力的にロケを続けていた。
バラクーダの大群。イキイキとしたサンゴの群生。ミクロネシア固有種の魚たち。同行のモデル嬢もダイビングサービスのインストラクターも気心が知れているので、オットも私も取材を楽しんでいた。
ポンペイは、これまで数回訪れている。ダイビング指導団体の事務局スタッフとして、ポイント調査の依頼を受け初めて訪れたのが2年前。透明度の高いダイナミックな海中に私はすっかり魅了されてしまった。
2回目はオットを誘った。このとき撮影したポンペイの海中は、ダイビング雑誌に掲載され話題になった。以来、まとまった休みが取れる度に、夫婦でポンペイを訪れていた。
今回の取材のハイライトは、ふたつの環礁「アンツ」と「パキン」。本島から離れた外洋にある、ダイバー手つかずスポットをデビューさせようというものだ。
環礁を紹介するとき、どうしてもはずせないのが空撮−小型飛行機かヘリコプターで上空から撮影する−である。取材日を3日残していた朝、いよいよ空撮決行となり、陸上撮影用の機材をセットして空港へ向かう。受け入れ先のダイビングサービスのマネージャーとスタッフも同行することに。
フライト前、ドイツ人のパイロットは夫に撮影機材を見せろと言う。
「なぜなら、自分はカメラに詳しいので、カメラを見ればそれに合わせた飛び方をする」(ホントか?)。
夫はカメラバックを開けて見せた。まゆ毛をピクつかせながら、じっと見るパイロット。おもむろに彼は奥の部屋に入り、カメラを手にして戻ってきた。
「これは、手に入れたばかりの最新式カメラである」。夫のカメラのラインナップに触発されて、自分のカメラ自慢をしたくなったようである(ドイツ人だなあ…)。
飛行機は、沖縄の離島便で飛んでいるプロペラ機と同型だ。操縦席の隣に夫、二番目のシートに私、その後ろに日本人のマネージャーを含むスタッフが乗り込んだ。
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