
第2話
飛行機は落ちる
文 /こばやしまさこ
写真/小林安雅
写真/小林安雅
パイロットが、あっちこっちのゲージに忙しく手をのばしている。
そして、いきなり私たちに振り向いて叫んだ。
「エブリバデ ○△×α!!! ライフジャケット ※◎△!!!」
ブルーの瞳が灰色になっているなあ …… そんなことはどーどもよろしい! 今、ライフジャケットって言ったよね!? も、もしかして、ヤバイ状況?
誰も声を出さない。窓の外は青空と白く光る雲。窓の中は奇妙な静寂。そのなかで、みんな黙々とシートの下に収納されているはずのライフジャケットをまさぐっている。
私もとりあえず、それにならう(…しかない)。
あ、あった、これかな?
お、重い…ライフジャケットってこんなに重かったっけ。ズルズルと引っ張り出したのは、ずいぶんと大きなパッケージ。指が冷たくこわばってうまく動かない。やっとのことでジッパーを開きパッケージを広げる。
あれ? あれ? !!! これって、救命ボートじゃん! こんなもん、機内で広げてどーすんだよ!
「私のライフジャケットがないいいー!!」
静寂をやぶったのは、私の叫び声だった。
誰かが後ろから放ってくれたライフジャケットをあたふたと装着しつつ前を見ると、藍色の海面がせまっていた。ということは、機体はほぼ垂直。
ひええ、いつのまに!? やっぱりダメ!? ホントに落ちるの? もしかして、死んじゃうかも?
頭をかけめぐる不条理な疑問符の数々。
落ちた! ものすごい衝撃!! なんて、暴力的!
無意識にシートベルトを外していた私は、思いっきり前に吹っ飛んで、そしてまた戻された。
フロントウインドが割れたのか、機内の前方から海水が滝のように侵入してきた。
前に座っていた夫が思いっきりドアを蹴った。
開いた! けれど、そこからもドーッと海水が襲いかかる。海水に押しやられないようにシートをつかんでふんばって、夫に続いて脱出しようと待つ。しかし、彼はいつまでたっても動かない。
夫をグイグイ押しながら、
「ちょっとなにしてんのよ! 早く出てよ!」
「おかしいんだよ。か、体が動かないんだよ」
「なに! どして?」
見ると、両肩にシートベルトをかけたまま。夫は普段から注意力散漫というか、ボーっとしているというか。しかし、
「バカ、バカッ! どうして、こういうときもボケかますのよ! アップ、ゴボゴボ」
夫をののしりながらシートベルトを外させているうちに、機体は水中に没した。
その機内から私たちは潜って脱出したわけである。
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