第3話

ヨレヨレの帰国

文 /こばやしまさこ
写真/小林安雅


  さて、これからどうしたらいいんだろう…と途方にくれていたら、向こうから大型の船が近づいて来た。(後で聞いたら、ミクロネシア連邦でただ一艘の巡視船がたまたまポンペイに寄港していて、落ちていく私たちの飛行機を見ていたそうだ)。
「おーい、お〜い!」
「ここだよお!」
「助けて〜!」
  おきまりの叫び声をあげている私たちに船が接近すると、上からポイポイと何かを放り投げた。
  なに? なんだ? 
  拾い上げてみたら、マスクとスノーケル…。
「これで帰れってかー!?」
  叫ぶ私たちを見おろして笑う乗組員。逆光の黒いシルエットに白い歯が光って、シュールだ。
  ジョークのマスクとスノーケルをガシッとつかみ、装着した人物がふたりいる。パイロットと夫である。ふたりはみんなが止めるのも聞かずに、海に飛び込み機内に潜っていった。そして夫はカメラバック、パイロットはご自慢だったマイカメラを引き上げた。気持ちはわかるけど、それって、陸上用カメラだからダメなんじゃない?

 3日後の夜、私はひとり痛む首をおさえつつ、ミクロネシア航空のグアム行きに搭乗した。夫は滞在を延長し、借りたカメラで陸上の撮影を続行することになった。私は首のダメージが大きいので、先に帰国することにしたのだ。

 あれから、お祭り騒ぎのようだった。
  マネージャーと私のふたりは、濡れた服のまま病院に連れて行かれた。
  しーんと静まりかえった病院のベンチに、少女と付きそいのおじいさんが座っている。なぜか一緒に呼ばれて診療室に入ると、重量級のドクター(ミクロネシア人)がいかめしく待ちかまえていた。
  先に少女の診察。まず、レトロ感漂う天秤ばかりに乗って体重をはかり、その後問診(どうやら彼女はカゼらしい)。ドクターはうやうやしく、大きくて赤いマーブルチョコみたいな錠剤を少女の手のひらにのせ、水が入ったプラスチックのコップを差し出す。少女はドクターの目の前でその錠剤を飲む。診察終わり。
  次は私の番。「首が痛い」と片言の英語と手振り身ぶりで説明するも、ドクターは黙って天秤ばかりを指さす。
「だから、首が痛いんだってば!」
  ドクターがじっと私を見すえるので、しょうがないから乗る。そして、問診。
  首を指さして「痛い、痛い」と訴えたら、ドクターはウムと頷く。そして、私の手のひらに錠剤を乗せた。先ほどの少女と同じ、赤い大きなヤツ。少女が飲み残したコップをグイと差し出す。…この水って、水道の蛇口から出していたよね…(生水はお腹をこわすかもしれないので、ミネラルウオーターを買って飲んでいたけど、いいのか?)。でも、大仏さんのように半眼でじっと見つめるドクターの前で、しょうがないから飲む。で、診察終わり(マジ!?)。
  マネージャーは重傷だった。レントゲン写真を撮ったら、鎖骨がポキンと折れていた。ドクターがこれから手術で折れた鎖骨をつなぎ合わせるというのを断り、逃げるようにして病院を後にした。マネージャーは私の次の便で帰国したそうだ。ナントカ村の祈祷師が治してくれるというのを振り切って…。