第6話 海辺のニンプ

 あれだけ喜々として通っていたマタニティスイミングなのに、しだいに足が遠のいていった。
オット「また、サボリかよ。本当に飽きっぽいんだから」
私「だって、ホントに飽きちゃったんだもん」
オット「ニンプのくせに、ゼータクだぞ」
私「うるさいよ!」
などという不毛な会話中、オットが撮影機材を整えていることに気づく。これから海に出かけるという。
  クサフグの産卵! 
  6月後半から7月下旬までの大潮まわりの時期の夕刻に、クサフグが産卵のために波打ち際にやってくる。海に入らないでも、海でさかなに出会えるチャンスがあったのだ。

「ちょっと、ちょっと! 私も行くっ」
  必死にすがって、同行することにした。
 
  場所は、意外にも、三浦半島の普通の海水浴場。夕暮れの浜辺で波打ち際に立って、深呼吸。「潜れなくてもいい。海のそばにいるだけで幸せなんだ」と実感した。
  日が暮れた浜辺にじっとたたずんで待つ。

  すると、クサフグが小さな群をつくって、うち寄せる波に乗ってくる。
  波打ちぎわでバチャバチャと音をたてながらメスが放卵、オスは放精する。
  次の引き波に乗って引き上げていく。


  海水浴場に指定されている浜辺の、ごく限られた場所で、生命誕生のドラマがくり返される。もうすぐ放卵…じゃなかった、出産する私にとって、これほどマッチした光景があるだろうか。
  この場所は、ナチュラリストのあいだで知れ渡っていて観察する人が絶えないのだけれど、不思議とこの日はオットと私だけだった。
  いや、もうひとりいた。お腹の中を泳ぎまわる命が、海という大きな生命体と呼応しあっていた。