
第11話
初めての海
文 /こばやしまさこ
写真/小林安雅
写真/小林安雅
わたし、ヤリイカの赤ちゃん。生まれたてのホヤホヤなの。
いま、たーくさんの兄弟たちといっしょに、この白いゼリーみたいな卵の中からモゾモゾ…パピュッて飛び出たの。
だけど、おかあさんが卵を生んだ場所が海藻や岩のかげなので、きっとダイバーのみんなは気がつかないと思うわ。それに、わたしって、ホントはとーってもちっちゃいの。だから、一生懸命泳いでいても、たぶんチリにまちがえられちゃうかも。
ねえ、よーくわたしを見て。きれいな色の点々があるでしょう。これはね、色素胞っていって、外からの光のしげきで、おっきくなったり、ちいさくなったりするのよ。
わたし、今はまだミジンコみたいだけど、おとなになったら、ヤリイカって名前どおりにスリムな美イカになるから、みんな楽しみに待っていてね。
(ライター駆け出し時代に、ダイビング専門誌の幼魚を紹介するページ「こんにちは赤ちゃん」に寄稿したもの)
普段のヤリイカは沖合の表層を泳いでいるけれど、12〜2月の産卵期になると岸近くに卵を生みにやって来てダイバーの目にとまる。
潮通しのよい岩に産みつけられた卵から、1カ月ほどたつと、1ミリほどの幼生が次々とハッチアウトする。

撮影のため水槽でハッチアウトした幼生をスポイトで吸いとって、小さいシャーレーに移したら、驚くことが起こった。
生まれたての幼生がスミを吐いたのだ!
「スゲー、スゲー!!」byオット
「キャー、キャー!」byツマ
ヤリイカの初スミ吐きを目撃して、夫婦で狂喜乱舞!
ヤリイカが我が身を守る術は、生まれついてのものだと分かった。たくましいなあ−−あまり役に立たないと思うけど。

さて、人間のチビのお話である。
実は私、本の虫である。活字中毒といってもいい。
子育てにも育児本は欠かせなかった。双方の実家を頼れなかったこともある。
ただ、育児のトレンドはめまぐるしく変わる。数年前の育児本は情報が古くなってしまうので、月刊の育児雑誌を買いあさってよく読んだ。
あるとき買った育児雑誌の付録に、ベビーダイアリーがついてきた。
表紙をめくると巻頭に“はじめてシール”があり、「寝返り」「ハイハイ」「立っち」「伝い歩き」など、「はじめて**した日」に貼れるようになっていた。
そのなかに「はじめての海」シールを見つけた。
「そうか、はじめての海はすべての親にとって特別なものなんだ。うちの子だったらなおさらじゃん!」
私は「はじめての海」シールを貼る日めざして、チマチマと育児ダイアリーにシールを貼っていった。
![[←air BE-PALのTOPに戻る]](../share_img/logo.jpg)
