第13話 子連れで海へ

 家族だけのひっそり、しみじみとした海遊びは最初の年で終わった。
  2年目の夏から、ぎやかな一団が加わることになったのだ。
  しーちゃん一家(しーちゃんの名前は静香だけど似合わないので、みんな、しーちゃんと呼んでいた)。
  しーちゃんはダイビング友だちである。
  仲間内では比較的早く結婚した−−とは言え20代後半。ダイバー(特に女性)にとって、一番の恋人は海なわけで、当然婚期が遅くなる。いや、遅くなるどころか「結婚しなくてもいいや」と思っちゃう女もたくさんいる。海の女の独身率は高い(私の周りだけか?)。
  話を戻そう。しーちゃんは海の女友だちのなかで、真っ当に結婚して真っ当にふたりの子どもをつくった希有なヤツ。ただし、子どもがいても海をあきらめず、一年に2、3回、家族で海に繰りだしてきた。そのしーちゃんが、私をカモとして目をつけたのは、当然の成り行きである。
  しーちゃんは生後1カ月もたたないうちに、「出産祝いだよー!」と特大の紙おむつパックふたつを抱えてわが家を急襲した。そして、「私がどんなに寂しい思いをしてきたかわかる?」と恨み節をひとくさり。そして、「でも、あんたは大丈夫よ! 私たちが一緒に海に行ってあげるからさ」などと、ひどく恩着せがましいコメントを残してサッサと帰っていった。

 そのコメント通り、わが家の一歳児の二度目の夏、しーちゃんは同じくダイバーの夫の運転する車で、ふたりの子ども(姉のサキ、弟のユウタ)を率いてに伊豆にやってきた。
  ダイバー夫婦の子どもだけあって、サキもユウタも海育ち。でも、いわゆる砂浜のビーチが好きじゃない。砂浜は透明度が悪いし、海の生き物が少ないことをちゃんと知っていた。そんなしーちゃん一家と繰りだしたのが、伊豆の家の近くにあるF漁港(ダイビングもできる)。夏休みのあいだ、港の湾内にロープが張られ地元の子どもたちに開放されていた。その場所に目をつけたのである。
  しーちゃんはうちのムスメの昼寝用に、ブギーボードを用意してくれていた。クーラーボックスには冷えた麦茶やジュースがたっぷり。さすが、子連れのベテランである。

 とーちゃんはそそくさと潜りに行ってしまった。
  私はムスメを浮き袋に入れ、湾内をスイスイと泳ぐ。
  …なんか物足りない。そうだ、スノーケリングという手があった! で、マスクとフィンとスノーケルをつける。
  す、すごい! 湾内にはたくさんの魚が群れていた。幼魚もいる。漁港の中って、フィッシュウオッチングの宝庫なんだ! 
  私はムスメ入り(?)浮き袋のを手にスノーケリング。ムスメは泣くこともなく、むしろ恍惚とした表情。ふわふわと海を漂う感覚が好きなようだ。
「おーい!」としーちゃんの声がして、波打ちぎわから麦わら帽を放ってくれた。そうか、ムスメの日射病予防ね。カプッとムスメに麦わら帽をかぶせて、スノーケリング再会。

 ソラスズメダイの群がブルーに光る。いつのまにか、ユウタとサキが横にいてが横にいて、ムスメをかまってくれている。しーちゃんもやってきて、みんな一緒にスノーケリング楽しんだ。港のなかは波がないので、子どもたちはリラックス。おとなも安心だ。
  気がついたら1時間が経過していた。ムスメを見ると、浮き袋をゆりかごにスヤスヤと昼寝中。
  これまで海に潜ることばかりに気をとられていた。
  スノーケリングがこんなにおもしろいとは気がつかなかった。
  ヤッター! これからはスノーケリングだあ。
  うれしい気持ちと一緒に春先に波打ちぎわで震えていたお母さんを思い出した。そして、この楽しさを教えてあげたいと思った。