第14話

海辺の家族

文 /こばやしまさこ
写真/小林安雅



 私の名前はゾエア。
  大潮の夜に生まれるの
  ショウジンガニのお母さんから一緒に生まれた何万匹もの兄弟たちは、引き潮にのってすぐにちりぢりばらばらになっちゃうのよ。
  沖でプランクトン生活を送りつつ、脱皮をくり返して大きくなっていくの。
  ふたたび浅瀬に戻ってきたときは、メガロパになっているの。そして、もう一回脱皮すると、お母さんと同じ形になって、ようやくおとなの仲間入りができるわけ。ちょっと、複雑な生い立ちでしょう。

 ショウジンガニは、本州沿岸で普通に見られるカニ。
  産卵は秋から冬にかけて行われる。交尾が終わった後すぐに卵が生み出され、お腹が卵でいっぱいになる。
  約1カ月後、卵から孵ったゾエア幼生を大潮の夜に一斉に放出。
  一匹の雌から放たれるゾエア幼生は数万匹。でも、ふたたび岸に帰ってくるメガロパ幼生は数匹にすぎない。

 春になると、伊豆の浅瀬にメガロパ幼生がたくさん見られるようになる。そして1カ月後に脱皮して、一人前のカニの形になったショウジンガニの赤ちゃんで海底はにぎわう。
  ダイバーのあいだでショウジンガニはもっともポピュラーなカニといえる。
  ただ、あまりにも当たり前すぎて、その生態は見過ごされがちだ。事実、私もそうだった。オットが水槽撮影用に捕まえたショウジンガニのメガロパを見るまでは。