第15話 海のテリトリー論

アクアリストはテリトリー意識が強いかなと思ったけれど、そのおじさんたちはそうじゃなかった。幼魚マニアだけあって(?)、子どもにもとても優しかった。
「よかったら、好きなのをあげるよ」とまで言ってくれた。

アワビやサザエじゃなくて親指ほどの小魚を採っているのだと分かっているようで、地元の人はウエットスーツ姿に寛容だった。

さっそく、ムスメを浮き輪に入れてスノーケリング。
水深は50cmほどと浅い。これなら、浮き輪なしでもOKかも…と思っていたら、目の前に茶色い葉っぱのようなものがヒラヒラ。
!!!! ツバメウオの幼魚じゃないか!!! 
沖縄で成魚は見たことがあるけれど、まさか伊豆半島で幼魚に出会えるとは。
ここは本当に死滅回遊魚の楽園なんだ。

この磯浜に、家族でせっせと通うようになった。
とーちゃんはスクーバダイビングではなく、スノーケルでじっくりと浅い海の生き物たちを向かいあった。そのあいだ、ムスメと私は網を手に採集に夢中になった。
ダイバーがいる海では網を手にしていると白い目で見られることが多かったけれど、ここではOK、OK。
…とはいうものの、生き物だってバカじゃない。「おめおめと捕まるわけないじゃん!」と魚たちも言っている(うそである)。
網があれば金魚すくいのようにたちどころに魚がとれると思われがちだ。私も当初はそう思っていたけれど、実際はほとんどボウズの日々。
でも、網を手に魚たちと向きあうことで、その生態をじっくり観察。魚にも個性があることが分かった。例えば、チョウチョウウオの幼魚でも、頭がいいのとそうでないのがいる。

チョウハンの幼魚は賢かった。
「チョウハン、みっけ!」と網をかざすと、サッと石のすきまに入り込む。そこをのぞくとウツボがクワッ。ヒャー!! あきらめてその場所を離れると、チョウハンは悠々と穴から出てきて、こちらの様子をうかがっている。チキショー! また追うと、同じ石のすきまに逃げ込む。どうやら、ウツボを用心棒にしたてているようである。

興味深いのは、翌年も同じ場所で同じことがくり返されたこと。
「ああ、この石のすきまにウツボがいたなあ」とのぞき込んだら、ウツボがニュッと顔を出した。そして、そこからチョウハンの幼魚がヒラヒラと…。
あきらかに世代交代しているのに、不思議だ。
「もしかしたら、魚の世界にも引き継がれる習わしがあるのかもしれないなあ」
タイドプールの中に子どもを放牧しながら思いをめぐらせるのも、ひとつのロマンなのだった。