第20話 潮だまりコロポックル
一度だけこの場所で、海水浴の団体と遭遇したことがある。
お水&東南アジア系の女性たちと、パンチパーマの男性たち。男性たちの背中には見事な刺青が……なるほど、ふつうの海水浴場はNGだろうなあ…。
でも、この人たち、いたってまじめに海水浴を楽しんでいた。
不安定な岩場にビーチパラソルをたてたり、バーベキューをしたり、女性たちは潮だまりで水しぶきをあげて楽しそう。
私もその筋の方々を観察できて、なかなか得るものがあった。
引き上げる直前、その筋の方々に「奥さん、ちょっとシャッター押してくれませんか」と頼まれた。記念の集合写真である。
「いいですよ」とインスタントカメラを受け取った。
「はい、チーズ」と声をかけたら、
男性全員がVサインをつくって、
「×××××〜!」(公序良俗に反するため伏せ字)
ひょええええ…。こりゃ、ムスメに聞かれたな。
案の定、帰り道ムスメの手をつないで、うす暗い森を歩いていたら、
「ねえ、あのおじさんたち、なんて言ったの?」
ムスメのひそひそ声からして、ちょっとやばい匂いを察知している模様。
「よく、わかんない〜」とごまかした。
城ヶ崎自然研究炉にあるこの場所、そのころは世を忍ぶ(?)人々のシークレットポイントだったのだけど、今はすっかり知れ渡り、夏は海水浴客で混み合うようになってしまった。
もう一つの潮だまりポイントは、伊豆半島をどんどん南下したある海辺。
市営の海水プールが夏休み中無料で開放されている。
「海じゃなくて、たまにはプールで泳ぎたい!」というムスメの願望もクリアできる。
ここの潮だまりは、大きさも形もさまざま。
岩の亀裂のような細長いもの、雨上がりの潮だまりのように小さくて浅いもの、お茶碗ほどのもの(どれもちゃんと生き物たちが棲んでいた)。
そのなかのひとつ、大きさも深さも洗面器そっくりの潮だまりをマイ・タイドプールに決めて、定点観察することにした。
マイ・タイドプールは毎回違う顔を見せてくれる。潮の満ち引きによって住人も入れ替わる。小さなミミイカが入っていたこともある。
あれから十数年たった今も、マイ・タイドプールは健在である。

大きな石が入っている潮だまりが、波打ち際にいくつかある。
最初のころは「ああ、石がはいっているなあ」と何気なく見ていたのだけど、アッと気がついた。底にある石は波によってゴロゴロと動いて、少しずつ潮だまりを削っているのだ(ポットホールという現象)。
また、お椀・洗面器サイズの小さな潮だまりは、杭を打った穴だったことが判った。
この場所は、明治から大正時代にテングサ採りが盛んに行われ、テングサを船で出荷するために桟橋があったそうだ。その桟橋のなごりが潮だまりとなっていたのである。
潮だまりウオッチングを楽しんだあとのお楽しみが、海水プールの売店のかき氷。
売店は「夏期対策委員」としぶいプリントの野球帽をかぶった、地元の高齢の方々が運営していて、うどん、お好み焼き、かき氷をつくっている。いつも暇そうで、たまにお客さんがくると(私たちである)、大盛りのかき氷に赤や黄色のシロップをたっぷりとかけてくれる。
プールサイドのスピーカーからは音楽も流れる。
「は〜るこおろおの〜 は〜な〜のえん〜」
女性ソプラノ歌手の声が朗々と響く。
夏期対策委員の家にあった小学校唱歌のカセットテープかなあ …し、しぶすぎる。
夏休みは国道が渋滞するので、それを避けるために帰りは近くにある海辺の町営温泉へ。
お目当ては、露天風呂だかプールだか、どっちつかずの「プールの湯」。
水着着用なので家族でまったりとできるし、子どもが泳いでも差し支えないのがうれしい。
窓つきのサウナもあり、プールの湯で遊ぶムスメを監視しながら夫婦で汗を流せる。
このサウナで漁師さんと仲よくなった。
地元の龍神様の伝説とか、絶対切ってはいけない木の言い伝えとか、汗を流しながら興味深い話をいっぱい聞くことができた。
前述のテングサと桟橋の話も、実はこの漁師さんから教えてもらったのである。
帰り道は、星がまたたく空の下、車を走らせる。
ムスメは爆睡。私もウトウト(とーちゃんはプールの湯のデッキチェアで仮眠済み)。
こんなふうに、夏休みの一日が過ぎていった。
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