
第21話
北の悪役・南のヌーディスト
文 /こばやしまさこ
写真/小林安雅
写真/小林安雅
スキューバダイビングでは、ひとつのフィールドに通って四季の変化により現れる海の生き物との出会いを楽しむ楽しみがある。そして、もうひとつの楽しみは、海そのものとの出会いを求めて旅をすること。
日本列島は南北に長く延びている。南には暖流の黒潮とそこから分かれた対馬海流、来たには寒流の親潮とその支流が流れている。これらの海流がさまざまな海の景観を海、たくさんの海の生き物を育んでいるわけである。当たり前だけど、ひとつとして同じ海辺はない。
子どもが生まれる前は、夫婦でよく旅をした。
一番多く通ったのが沖縄。そのほかに印象が強かったのが、雪が降る直前に訪れた北海道知床の海。本州に比べるとかなり水温が低いが、完全防水で保温効果が高いドライスーツが普及したおかげで、私でも潜れるようになった。
そこで出会った海の生き物はどれも初対面ばかりで、私はかなり興奮した。
北海道知床というと、すぐに思い浮かべるのがクリオネ。今やすっかり人気者のクリオネ目当てにダイバーが知床の海を訪れる。
流氷の幼生と呼ばれるクリオネは実は貝の仲間である。クリオネという名前は学名(Clionelimacina)からもじった呼び名で、ハダカカメガイという和名がある。売り出すときに「美しく可憐なハダカカメガイ」ではイマイチなので、「クリオネ」という芸名を誰かがつけたに違いない。かってのアイドル、ウーパールーパーの本名が実はアホロートルだったように。
また、実際にクリオネを見たダイバーは「あれ?」と思う。
流氷とともに現れたばかりのクリオネは全長1pにもみたないからだ。一見、目の前を漂う浮きゴミみたいだ。
私が潜った11月下旬はクリオネのシーズンではなかったが、実にたくさんの生き物と出会うことができた。
ホタテガイの養殖場に潜らせてもらったとき、少し離れたところで見つけたヒトデを連れてきて、ヒトデに近づけてみた。ホタテガイの天敵がヒトデと聞いていたので、どんなふうになるか試して見たのだ。ヒトデに気づいたホタテガイはいきなしバフバフと海水をジェット噴射させて逃げ、離れた場所に着地。もう一度近づけると、またバフバフ。
ホタテガイがこんなにアクティブだったとはと感心しつつ、何度も何度も同じホタテガイにヒトデを近づけた。何回やったら疲れて諦めるかなと思って…。しかし、何回でもホタテはバフバフした。死ぬか生きるかの瀬戸際なのだから、当たり前である。

魚たちも個性派が揃っていた。
ツンととがったおちょぼ口のアツモリウオ、ぽってりとした体のホテイウオ、風船みたいにふくらんだフウセンウオ。
彼らは「きれい」とか「かわいい」というイメージにはほど遠いけれど、いかつい悪役俳優がふと見せるひょうきんな表情を思い出させてくれた。
子どもが生まれてからは、海の旅からすっかり遠ざかってしまっていた。
とーちゃんは相変わらず仕事で国内や海外に出ていたけれど、家族で遠出することはなかった。子どもの場合の航空運賃は、国内線が3歳未満が無料、国際線は2歳未満が無料じゃないけれどただみたいな値段だとわかっていたけれど…。
高齢出産のためか、私は日々の育児に疲れ切っていた。
旅行に出たとしても、育児のさまざまなことはついて回る。わざわざ、もっと疲れに行くようなもんである。赤ん坊にしたって、環境が変わるのは迷惑に違いない。
娘が4歳になったころから、旅への思いが少しずつ頭をもたげてきた。
静かにしなさいと言うと、聞き分けられるようになった娘が最大のポイントかもしれない。
そんなとき、とーちゃんの仕事仲間である女性編集者のヒロミさんにハワイ島に誘われた。
彼女は3歳の女の子のお母さん。アメリカ人の夫はハワイ島でダイビングガイド、彼女は日本で子連れでフリー編集者の仕事と、普段は離れて暮らしている。年に2、3回、娘とハワイ島に行って、家族で2〜3週間過ごしていた。
その彼女がハワイ島に行くときに「一緒に来ませんか」と声をかけてくれたのだ。
願ってもないチャンスとばかり、さっそく、娘のパスポートをとり、私のパスポートも更新し、クリスマスシーズン前の安いエアチケットをゲット!
とーちゃんは「ハワイの固有種の魚を撮ろう」とスキューバ器財と撮影機材をパッキング。私はスノーケリングの3点セットのみ。潜らない海の楽しみを知ったので、これで十分。
気分はウキウキである。
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