
第24話
泳ぐ、光りもの(最終回)
文 /こばやしまさこ
写真/小林安雅
写真/小林安雅
沖縄県の座間味島が好きで子どもができる前は、よく通った。そのとき、ダイバーのアイドルだったのが、サザナミフグのぽん太。ホトホトとした泳ぎとユーモラスな顔立ちで、人にとても慣れていた。
娘が小学生のとき、約10年ぶりに座間味へ行った。もう、ぽん太はいないだろうと思っていたら、ぽん太そっくりのサザナミフグが現れた。やはり、とても慣れていて、ガイドがさばいたオニヒトデを、ガシュガシュムシャムシャとおいしそうに食べた。
仮の名前をぽん吉とした。

マンガ「意地悪ばあさん」(長谷川町子作)のなかで、世をはかなむデブの女性にやせるには「そうだ、水泳がいい」と進めているのに意地悪ばあさんが「フグは?
カバはどうよ、あんた」と混ぜっ返すシーンが好きだ。
水泳はともかく、ダイビングを長く続けても絶対にやせない。
やせないどころか「太る!」と声を大にして言いたい。その証拠に、とーちゃんが“カバ”。私の経験からも言えることだが、スキューバダイビングは経験値が高いほどカロリーを消費しない。タンクの空気消費量をおさえるために、極力無駄な動きをさけるためである。でも、陸に上がると、実に爽快に健康的にお腹がすくのが困りものなのだ。
とーちゃんのダイビングスタイルはモッサリしている。
海底を這いつくばって移動し、中層を泳ぐときはフィンをレロレロと動かしゆるゆる泳ぐ姿はサザナミフグのぽん吉そっくり。
これと思う生き物に出会うと、カメラを構えつつじっくりと観察をする。いつまでも、いつまでもじっとして動かない。
ムスメがチビのころの夏休みはほとんどを伊豆で過ごし、毎日海へ繰り出していた。
とーちゃんはたいていタンク2本分潜る。そのあいだ、私とムスメは海に入ったり出たりお腹がすけば食べたりして過ごした。
朝8時ごろに家を出て夕方5時過ぎに戻るパターンを続けていると、さすがに疲れる。
ある日、1本目を潜り終えたとーちゃんに「たまには早く帰ろうよ」と提案したら、「よおし、じゃあ2本目は早めに入ろう」とお弁当をそそくさと食べて海に入っていった。
ならばと3時ごろからムスメにシャワーを浴びさせ帰り支度をして待っていたのだが、とーちゃんはなかなか上がってこない。
結局海から上がってきたのは、午後4時を大幅に過ぎていた。
「ちょっと、何考えてんのよ! 早く潜ったって遅く上がってきたら、いつもと同じじゃない!」
筋が通っているんだかいないんだかわからない、私が発した怒りの言葉にとーちゃんは
「…はあ…?」
フィルムもしくはカメラのバッテリーが切れるか、タンクのエアが切れるかを陸に上がる目安しているとーちゃんは、ダイバーにあるまじき行為なのであるけれど、まったく時間を気にしないのであった。
「ダイビングはつきあいきれないよ!
私がプンプン怒るので、じゃあ、スノーケルポイントを開拓しようと、伊豆半島を車で回ることにした。南伊豆から西伊豆の海岸線沿いに移動して、おもしろそうな場所を見つけてはムスメを浮き輪に入れてスノーケリングを繰り返した。
下田のとある海岸に車を駐めて海に入ろうとしたとき、先発したとーちゃんが
「ダメ、ダメ! 入っちゃダメ!」
と叫びつつ上がってきた。
「アカクラゲの大群が押し寄せている!」

ひえええ。ここは撤退だと思っていたら、とーちゃんはいったん車に戻り、フードつきウエットスーツで完全武装をしてきた。手にはカメラ。
「アカクラゲのいい写真がなかったから、ちょうどよかった。ちょっと待ってて」
と言いつつ、バシャバシャと海に入っていった。
炎天下、波打ち際で待つ私とムスメ。
「暑いよー、海に入りたいよお」
「ここはダメなの。すぐとーちゃんが上がってくるから、そしたら違う海に行こうね」
しかし、「ちょっと」のはずが、なかなか上がってこないとーちゃん。
結局1時間以上待たされ、私は般若の顔…。
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