第24話 泳ぐ、光りもの(最終回)
とーちゃんが若いころ所属していた日本水中映像の代表であり水中写真家の中村宏二さんが、「なんだかんだ言っても、ヤスマサは大物と光ものが好きだからなあ」と言ったことがある。最初はホントか?と疑ったけれど、宏治さんがハワイ・マウイ島で撮影したザトウクジラのビデオ映像を見て納得した。
悠然と泳ぐザトウクジラの周りを、アブのごとくプンプン飛び交っているのがとーちゃんだった。
テレビ番組の取材でとーちゃんは宏治さんのアシスタントとして同行していたとーちゃんは、16ミリカメラを担当。
「ヤスマサはビデオ撮影のじゃまになっているのにしつこくてさ。クジラにつきまとったあげく、ひれではね飛ばされてさあ」と宏治さん。
フィルムがとっくに切れた、カラの16ミリを回していたそうだ。
陸でも海中でも省エネモードのとーちゃんのスイッチが、めずらしく全開になったことがある。水中写真入門書の取材をかねて訪れた、マレーシア・ボルネオのシパダン島。5歳のムスメも同行した。
最初のうちはリゾートの周辺でまったりと、ぽん吉モードで潜って撮っていた。
途中から本の編集者が合流し、ボートをチャーターして魚群の撮影を行うことに。
ムスメはリゾートのスタッフが見てくれるというのでお留守番。
狙いはバラクーダとギンガメアジの群れ。光りものである。
私は久々のダイビングだったので、傍らで見守るのみ。ガイドさんがとーちゃんのアシスタントになってくれた。
潜ったとたんに、バラクーダの群れが現れた。
とたん、とーちゃんのスイッチが高速運転に切り替わる。
群れに突っ込むように、猛然とダッシュをかけた。ザッザッと方向転換を繰り返す群れを追いかけながらシャッターをバシバシ切る。先端に回り込んで押し寄せる群れを撮影する。
ガイドさんは“ぽん吉”とーちゃんしか見ていなかったので、ちょっと舐めていたのかもしれない。次第にとーちゃんに追いつけなくなった。

撮影を終えてリゾートに戻ると、ムスメは調理場の床に座り、スタッフとその子どもたちに混じって大量のニンニクの皮をむいていた。
「あー、○ちゃーん!」
ムスメに手を振るとーちゃんは、ぽん吉に戻っていた。
「お料理の次はお掃除なのー」
各部屋を回るスタッフおばちゃんたちの後を、ほうきとバケツを手にうれしそうについて行くムスメを見送りながら、
「やっぱ、プロなんだねえ。やるときゃやるんだねえ」と私が言ったら、
「くさってもタイよ。ムフッ」
とーちゃんは、くわえたばこで笑った。
「海辺の家族」は今回でひとまず最終回。でも、未完です。
娘が6歳ごろまでの海辺で過ごした話を中心に書いてきましたが、実際はエンドマークが出ることなく今も物語が続いています。
どの家もそうであるように、家族の歴史には楽しいことうれしいこともあれば、同じようにつらいこと悲しいこともつきまといます。そんな、さまざまなエピソードを反芻する場所が、私にとって海辺なのです。
伊豆の磯にしゃがんでタイドプールをのぞき込み、
「…ったく、あのときにあんな風にしなきゃよかった…」
とぐちぐちつぶやいたり、グフフフと怪しい笑い声をたてたりしているおばさんがいたら、それはたぶん私です。
海の生き物を見つめながら日常のできごとに折り合いをつけつつ、海底深く沈めたエピソード。時がたつとそれがプカプカと浮力を得て、やがて渚に打ち上げられる−−そんなものを拾い集めて書いてきました。
また、機会がありましたら、「海辺の家族」続編でお目にかかりましょう。
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